脳卒中(脳梗塞や脳出血など)のあとに、多くの方が「手足が突っ張ってしまう」「力が抜けない」と感じます。これは痙縮(けいしゅく)と呼ばれる症状で、リハビリや生活のしづらさにつながる大きな要因のひとつです。
ここでは、なぜ脳卒中で手足が突っ張るのか、どんな工夫があるのかをできるだけわかりやすくお伝えします。
1. 脳卒中で体に起こること
脳は「体を動かす指令」を出す役割を持っています。脳卒中で血管が詰まったり破れたりすると、その部分の神経がダメージを受け、手足をうまく動かす指令が届かなくなります。
その結果、筋肉をコントロールする「ブレーキ」がきかなくなり、筋肉が勝手に強く縮んでしまいます。これが「突っ張る」状態の正体です。
2. 突っ張り(痙縮)が起きる理由
人の体には、伸ばされると自然に縮む「反射」があります。本来は脳がコントロールしてくれるので必要以上には働きません。
しかし脳卒中でそのコントロールが弱まると、反射が強く出てしまい、手足が「ガチッ」と固くなります。
さらに、動かない時間が長くなると筋肉や関節そのものも硬くなり、突っ張りがどんどん強くなっていきます。
3. 生活への影響
突っ張りがあると、日常生活にさまざまな困りごとが出ます。
- シャツの袖に手を通しにくい
- 箸やスプーンが持ちにくい
- 足がつっぱって歩きづらい
- 体がこわばってバランスを崩しやすい
特に手は細かい動作に、足は歩行の安全に大きく関わるため、突っ張りへの対応はとても大切です。
4. リハビリや治療でできること
突っ張りを和らげるためには、いくつかの方法があります。
- ストレッチや運動
ゆっくり手足を伸ばしたり、自分で動かす練習を重ねると、筋肉や関節が硬くなるのを防げます。 - 装具や支え
手や足の位置を整える装具を使うと、突っ張りが悪化しにくくなります。 - 薬や注射
場合によっては、内服薬や「ボツリヌス注射」で筋肉の緊張をやわらげる治療も行われます。 - 専門職によるリハビリ
理学療法士や作業療法士と一緒に練習を続けることで、動きやすさが少しずつ戻ってきます。
5. 前向きに向き合うために
突っ張りは脳卒中後によく見られる症状で、決して「自分だけの問題」ではありません。早く気づいて対応することで、悪化を防ぎ、生活を少しでも楽にできます。
リハビリや治療は長い道のりですが、正しく向き合うことで改善や工夫の余地が必ずあります。焦らず、一歩ずつ進めていきましょう。
参考文献
- Lance JW. The control of muscle tone, reflexes, and movement: Robert Wartenberg Lecture. Neurology. 1980;30(12):1303-1313.
- Sommerfeld DK, Eek EU, Svensson AK, Holmqvist LW, von Arbin MH. Spasticity after stroke: its occurrence and association with motor impairments and activity limitations. Stroke. 2004;35(1):134-139.
- Wissel J, Manack A, Brainin M. Toward an epidemiology of poststroke spasticity. Neurology. 2013;80(3 Suppl 2):S13-S19.
- Lundström E, Smits A, Borg J, Terént A. Four-fold increase in direct costs of stroke survivors with spasticity compared with stroke survivors without spasticity. Stroke. 2010;41(2):319-324.
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン2021.
